5/8 鉄人の奇跡
5月連休最後の巨人対阪神、伝統の一戦第2ラウンド。
その序盤は波乱の幕開けだった。
3対2の阪神リードで迎えた3回表、阪神の攻撃。
巨人の先発投手は木佐貫、打席には阪神の4番、金本。
カウントは2-1。
巨人バッテリーは外角中心の配球でこの有利なカウントを作った。
したがって、ここでは1球インコースに見せ球を投げ、最後はまた外の変化球もしくはストレートで仕留めたい場面だ。
しかし、木佐貫が投じたインコース高めのストレートは手元が狂い、糸を引くように打者金本の顔面に向かう。
首をすくめ身を翻し避ける金本。だが間に合わず、ボールはヘルメットの後頭部を直撃。
スタンドに響く悲鳴。
金本はもんどりうって倒れこむ。
いかな鉄人とはいえ選手生命の危険すら感じる一大事だ。大丈夫か。
球場内の空気は凍りつく。
木佐貫はマウンドで顔面蒼白。審判は金本の様子を覗き込みながら、木佐貫を指差し危険球退場を告げる。
しかし金本はしばらくうずくまったあといったんベンチに下がるが、ほどなく再びグラウンドに現れ一塁ベースに歩いた。
まさに鋼の身体。場内から感嘆の声援と大きな拍手。
思い返せばヘルメットに当たったボールは大きく弾んでいた。
ちょうど後頭部の頭頂との角あたり、ヘルメットのクッションが当たっている部分だ。
当たった角度が良く、衝撃をうまく吸収して分散し、ボールが大きく弾んだのだろう。
頭を守ったヘルメットはこれでその命を果たし壊れたようだ。
金本は控え選手坂の35番のナンバーが入ったヘルメットを借りて一塁ベース上に立つ。
いくら鍛え抜かれた身体とはいえ、今回は運が良かった。そして避け方がうまく奇跡的に大事を逃れた。
奇跡はこれだけでは終わらない。
試合は進みスコアは3対2のまま、回は6回表。
再び打席に立つ金本。投手は代わって3人目の門倉だ。
先ほどの打席での後でもあり、バッテリーの配球はどうしても外角中心になる。
しかしあのような危険な死球を受けた直後、打者としてもボールの残像は残っているだろう。
経験者の話によれば、顔面近くをかすめる速球は恐ろしい「音」がすると言う。
当たらなかったとしてもその映像と音の記憶は恐怖心を呼び起こし、その怖さから打撃に大事な「踏み込み」がどうしてもできなくなる。
金本とはいえそれは同じだろう。カウント1-2までの外角の3球、すべて見送りだった。
今日の試合は無理なくフルイニングを続けてくれればそれで御の字だ。無理をすることはないし、できないだろう。
そう思った直後の4球目。
外角やや甘く入った変化球に金本はしっかり踏み込み、体の正面で捕らえフルスイングした。
打球はライナー性の弾道でライトスタンド一直線。打った瞬間それとわかる見事なホームランだった。
信じられない出来事だった。
それにしても金本はすごすぎた。
あの死球の後このホームラン。
ある意味、恐怖心が麻痺しているのだろう。そしてそれを裏打ちする驚異的な鍛錬と自らのセルフコントロール。
この打席で普通のバッティングなんて無理だろう。球場中の誰もがそう思っていた。ただ1人、金本本人を除いては。
まさに鉄人。陳腐な表現だがその言葉を具現する本当の鉄人だ。
試合はこのあともつれ、結果阪神が5対4で勝利するのだが、この熱戦、そして奇跡を呼んだ一戦に水を差す残念な出来事があったので、試合の勝敗にはここでは触れない。
残念な出来事とは7回裏、巨人ラミレスのホームラン性の当たりを阻んだレフトスタンド観客の妨害行為。
ラミレスの放った一撃はライナー性でスタンド際ギリギリの当たり。
入れば逆転となるスリーランホームランだ。
しかしレフトスタンド最前列に陣取った阪神ファンがボールに手を出し、打球は観客の手に当たってグラウンドに落ちた。
ホームランか否か。
審判の手は回らず、打球はインプレーの判断(判定はエンタイトルツーベース)。
原監督が抗議するも判定は覆らず、結果は2塁打となった。
リプレー映像を見ると、打球の弾道はフェンスぎりぎりを越えるか越えないかの微妙な当たり。
カメラの角度によっては越えてそうにも見える。
しかしそこで観客が手を出した。
憎むべき妨害行為だ。
繰り返すが、この打球がスタンドインとなっていれば巨人が逆転するスリーランだった。
ラミレスはこの日すでに1本のホームランを放っており、振れていた。
1点を争う熱戦、そして金本の死球があり、さらに奇跡的なホームランがあった。だからこそ両チームともこの試合、気迫と気迫のぶつかり合いで落としたくない試合だったのだ。
今となってはわからないが、ここで仮にラミレスの逆転スリーランがあったとしたら、試合はさらにもつれただろう。
そしてタイガースはさらに一丸となり、この試合に絶対に勝つため死力を尽くし、そしておそらく再逆転しただろう。
そんな球史に残るかもしれない一戦を、心無いファンの「手」により妨害されたのだ。
こんな輩は「ファン」なんて呼びたくない。
僕は阪神が好きだが、こんな暴徒が跋扈する「似非阪神ファン」のことは大嫌い。
特にレフトスタンドに陣取る自称ファンたちの一部には質が悪い者が紛れ込んでいて、以前も同様の打球を旗で妨害してグラウンドに落としたり、また試合中にスタンドからグラウンド内にラジカセを投げ込み試合を中断させる、といった暴挙があった。
こういったファンたちは、巨人のことを「讀賣」と意図的に呼んで、「打倒讀賣」などと染め抜いた法被などを着てスタンドでくだを巻いている。
ヤツらは本当に阪神が好きなのか。いわんや野球が好きなのか。
きっとそうではないのだろう。
そこで行われている「野球」というイベントにかこつけて、阪神を応援することに酔っている「自分たち」が好きなだけなのだろう。
もし本当に野球が好きなのだったらグラウンド内で行われているプレーの邪魔をするなよ。
そして良いプレーには敵味方問わず歓声を送れよ。
そういう気持ちが持てないなら球場に来るなよ。
せっかくの熱戦と奇跡を台無しにする後味の悪いできごとだった。
(東京ドームではたびたびスタンド際でこのような出来事が起きるので、外野フェンスギリギリまで観客席を設ける商売根性丸出しの座席配置も改善したほうがいいとは思うが)
しかしこんなできごとがあったとしても金本のバッティングの奇跡は色あせない。
彼は今日の試合も何事もなかったように、グラウンドに立つのだろう。
満身創痍の体を隠し、鋼の精神力で。
そんな彼に心からの賞賛と声援を送りたい。



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