7/22 風邪の思い出

風邪ひいた話ばかりしていますが、ようやく治ってきました。
ベストコンディションまでは、もうしばらくかかりそうだけど。

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高校生の時、体育で「時間走」という種目があった。
「時間走」とは、決められた時間の中で、何メートル走れるか、というのを競う種目。
僕が高校の時は、それが15分間走で、与えられた目標距離は4000メートル。
4000メートルを超えると、体育教官室の前の目立つところに名前を掲示してもらえる。これは「運動神経のいい男子」の証みたいなものだ。
これを目指して毎回体育の時間は必死に走るわけ。

しかし15分で4000メートルというのは結構ハードルが高く、1分間あたり266メートルでラップを刻まなければならない。1000メートルなら3分45秒ペース。それほど楽なタイムではないことがおわかりいただけるだろう。これをクリアできるのは、学年で20~30人ぐらいだ。クラスで2~3人っていうレベル。
僕も部活(♪ワンダーフォーゲル部!)で毎日走っていたのでそれなりに鍛えてはいたのだが、1度目のトライでは3900メートル、あと100メートルというところで力尽きた。最初の方に飛ばしすぎたのだ。2度目はその教訓を生かし前半スタミナを温存、後半追い込むも3950メートル。この50メートルの遠いこと。しかし、この「時間走」を体育でやるのは7~8回だったと思うが、このペースで行けば、僕も4000メートルをクリアするのは時間の問題と思われた。
よーし、オレも「運動神経のいい男子」の称号、そして体育教官室の前にできる人だかりの前にどどーんと「荒尾 圭」の名を輝かせたるでー!

で、あのクラスのあの女子に、
(妄想)
「ほら見て見て、あそこ体育教官室の前、知ってる?」
「あー時間走の速い男子の名前が貼ってあるやつ」
「ちょっと、よく見てみて」
「うわー!アラオくんすごーい!」
ドドーン!(東映映画のオープニングの波涛)

どーだ!これで俺の高校生活も順風満帆!見てろよ女子!
(僕は昔から運動神経の良い男子=モテる、と思い込んでいて、今でもある意味その考えは変わらない部分もあったりする)
と気合を入れ、新しいシューズを買い、夜な夜なランニングもしてコンディションを整え・・・、
ていたのだが。

こんなときに限って僕は風邪をひいてしまったのだ。
夜ランニングをしたあと、汗の処理もきっちりしないで寝てしまったからだろうか、それとも・・・。
いろいろな疑念が頭をよぎるが、風邪をひいたということは動かしようのない事実。
げほ、げほ。
こんな体調でも体育はあるので、気持ちだけは張って走るのだが、やはり風邪だと呼吸が苦しく、息も絶え絶えになり記録が伸びない。おまけに頭までボーッとして気持ち悪く、食べ物を口にすることもできない。体育の日は1日それだけで終わってしまうような苦しい日々が続いた。
げほ、げほ。
咳き込んで苦しく、苦しさと悔しさで涙が出た。
この風邪を治すためなら藁にでもすがる気持ちで、熱い風呂に浸かって無理やり汗を出してみたり、風邪薬を通常量の2倍飲んだり(注:真似しないで下さい)、氷枕を何度も取り替えてみたり、生姜汁を飲んだり、いろいろなことを試した。

そんな努力が功を奏したのか、ようやく体育の「時間走」があと2回というところで風邪は治った。
その週の1度目、これまでとは見違えるように身体が軽い。行けるかも・・・。
そう思って飛ばし気味に入るも、ラスト3分、急にペースが落ちてくる。最後のひと踏ん張りがきかなかった。やはり風邪の間トレーニングをしていなかったので、体力そのものがピークよりも落ちているのだ。記録は3970メートル。
あと、30メートル・・・。オレはトラックに膝をついて、30メートル先の消石灰の白線を恨めしく眺めていた。

そして最後のチャンスがやってきた。
もう、体調がどうのこうの、言ってられない。
スタート前の緊張で、ノドがひゅうひゅうと鳴った。落ち着け、オレのノド。これが終わったらいくらでも楽にしてやるから。

「パーン!」
体育の教師のピストルが鳴った。スタート。

スタート直後から身体はやや重い。しかしここでペースを下げてしまうと、なかなか「セカンド・ウインド」(持久走である程度の距離を走ると呼吸が楽になる状態)にならないので、ここは気合を入れて上げていかないといけない。
ハッ、ハッ、ホッ、ホッ、ハッ、ハッ、ホッ、ホッ。
2吸い、2吐き、の呼吸を守りながら前のランナーを追いかける。前に見えるのはラグビー部のKだ。たしかアイツはもう4000メートルをクリアしてるはず。アイツに付いていけば、オレも4000メートルペースで行けるかもしれない。
ほどなく「セカンド・ウインド」の状態になった。腕の振りもリズムがよく、良く振れている。腕を振れば脚は自然についてくる。
トラックには体育教師が秒数を読み上げる声が響く。「7分15ー、7分20ー、7分25ー、7分30ー」。
半分過ぎたところで距離は2100メートル。100メートルの貯金がある。行けるか!

しかし、10分を過ぎたあたりで、急に呼吸がキツくなり、肺が破裂するような苦しさに襲われた。つれて、視野もだんだん狭くなり、頭がグラグラし始めた。やはり病み上がり、コンディションは万全ではないのだ。
頭の中でもう1人のオレがささやく。
「こんなん、一生懸命やったってしゃーないで。3970メートルでほとんど4000メートルみたいなもんやし。全然オッケーやん。もうええやん。しんどいし、やめよーやめよー」
・・・速度が落ちそうになり、前を走るKの背中が遠くなる。ああ、もう終わりか。やんぬるかな。まあ良い、オレもよくやったよ。風邪ひいたんだし、仕方ないよな・・・。

そう思いかけたとき、走る俺の前方に体育教官室の窓が見えた。通りがかりの女子が、教官室に張られた「時間走」の紙を見ている。
オレの身体の中に新しいエネルギーがほとばしった。
そうだ。あそこにオレの名前、載せるんだ。

落ちかけたペースを、気持ちで上げていく。まだ行ける、行けるはず。
さっき離されかけた、Kの背中がどんどん近づいてくる。そしてとうとう、Kに追いついた。オレはKを抜きかかり、横目でにやっと笑みを作った。Kが「えっ」と驚く表情が見えた。
まあ笑みを作ったつもりだったが、実際には苦しくてすごい表情だったかもしれないけれども。
その後はただ、自分の呼吸の音と、土のトラックの黄土色だけがただ視野をどんどん後ろに通り過ぎていくだけで、ほとんど何も覚えていない。

ひゅうひゅう、ひゅうひゅう、ひゅうひゅう・・・。最後の1分、死力を振り絞り、呼吸もメチャクチャに、オレは走った。

「・・・・、14分50、55、56、57、58、59、15分!そこまでー!」
自分のペアの相手が自分の周回数と最後の地点を記録してくれる。オレは余力もなく、15分のコールの後、10メートルぐらい走った地点でゼイゼイ言いながら地面に倒れた。
同じクラスのペアの相手が、そんなオレに近づいてきて、こう言った。

「アラオ、4075メートル。やるやん。」
(BGMは♪「炎のランナー」のテーマ)

・・・・こうして最後の体育の「時間走」、オレは最後の最後で目標を達成して、体育教官室の前に張り出される20数人の中に名を連ねた。目標を達成した喜びは何事にも代えがたく、普段は家族とロクに口をきかないオレも、めずらしく父親などにそんな時間走の記録を自慢していたような記憶がある。

・・・で、その「運動神経のいい男子」の称号になるはずの体育教官室の前の張り出し、だが、その週で時間走は終わりだったので、ものの数日であっという間にはがされてしまい、ほとんど人目に触れることはなかったとか。
当然女子もそんなものは見ているはずもなく、結局4000メートル超えようが超えなかろうが、アラオの高校生活には何ら順風は吹かなかったとさ。
めでたし、めでたし・・・(めでたくねえぞ!)。ちゃんちゃん。

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